東京家庭裁判所八王子支部 昭和63年(家)2515号・昭63年(家)2516号・平元年(家)2340号・平元年(家)2341号
主文
1 相手方桜子の平成元年(家)第2340号、第2341号各寄与分の確定申立事件の申立をいずれも却下する。
2 被相続人亡甲野太郎の遺産と被相続人亡甲野花子の遺産を次の(1)ないし(4)のとおり分割する。
(1) 別紙遺産目録(一)の<1>の土地および同(一)の<3>の建物は相手方両名がそれぞれの持分を2分の1として共有で取得する。
(2) 別紙遺産目録(一)の<2>の土地は申立人松子が取得する。
(3) 別紙遺産目録(二)の<1>の土地は申立人竹子が取得する。
(4) 別紙遺産目録(一)の<4>ないし<8>および別紙遺産目録(二)の<2>ないし<6>の預貯金貸付信託現金電話加入権はいずれも申立人2名と相手方2名がそのそれぞれの4分の1宛てを取得する。
3 (1) 相手方桜子は申立人松子に対して金14,000,000円を、申立人竹子に対して金7,500,000円を、それぞれ本審判確定の日から120日以内に支払え。
(2) 相手方梅子は申立人松子に対して金14,000,000円を、申立人竹子に対して金7,500,000円を、それぞれ本審判確定の日から120日以内に支払え。
4 鑑定人○○○○○に支払った鑑定料金900,000円は申立人両名および相手方両名がそれぞれ金225,000円宛て負担する。
理由
1 (申立の趣旨)
申立人松子と同竹子の両名は、被相続人亡甲野太郎(以下、被相続人亡太郎という)と被相続人亡甲野花子(以下、被相続人亡花子という)の遺産分割を求めた。昭和63年(家)第2515号、第2516号事件。
相手方桜子は、被相続人亡太郎と被相続人亡花子の相続について同相手方の寄与分の確定を求めた。平成元年(家)第2340号、第2341号事件。
2 (相続、相続人、相続分)
本件記録中の戸籍謄本その他の証拠によると、被相続人亡太郎と同亡花子は夫婦であったが、被相続人亡太郎は昭和61年7月10日死亡し、その法定相続人は妻である被相続人亡花子と長女である申立人松子、弐女である相手方桜子、参女である相手方梅子、四女である申立人竹子の合計5人であった事実、被相続人亡花子は昭和61年8月1日死亡し、その法定相続人は申立人両名と相手方両名の合計4名であった事実を認めることができる。したがって申立人両名と相手方両名の法定相続分は被相続人亡太郎の相続につき結局いずれも4分の1、被相続人亡花子の相続につき同じくいずれも4分の1となる。(以下、申立人両名と相手方両名の合計4名を「当事者ら」という)
3 (遺産)
本件記録中の不動産登記簿謄本、鑑定人○○○○○作成の不動産鑑定評価書(3通)、預金残高証明書写し類、定額郵便貯金証書写し類、相手方桜子作成の特別養護老人ホーム施設長宛て遺留金品受領証、等の証拠に申立人両名および相手方両名(当事者ら)の各審問の結果を綜合すると、被相続人亡太郎の遺産は別紙遺産目録(一)の<1>ないし<8>掲記のとおり、被相続人亡花子の遺産は別紙遺産目録(二)掲記<1>ないし<6>のとおりであることが認められる。(以下、これら遺産を本件遺産(一)の<1>の土地等という)
4 (寄与分)
本件においては相手方桜子が寄与分の確定の申立をしている(平成元年(家)第2340号、第2341号)。よってその点について判断する。
同相手方の審問の結果その他の証拠によれば同相手方は被相続人両名の生前、他の相続人(当事者ら)に比べればその近くに住み、ある程度密接な生活関係を有していた事実を認めることができるが、問題は同相手方が他の相続人に比べて、本件各遺産の形成維持について特段に貢献していたことがあるとか、被相続人両名の療養看護についても、長く共同生活をするとかこれに専心従事するなどして他の相続人に比べて格段に重い負担をするなどした事実があるとかして、法定相続分に応じた配分によっては常識上あまりにも不公平不相当であり、ひいては社会正義に反することになるという事実までがあったか否か、であろう。
ところで、相手方桜子はもとより被相続人両名の実子なのであって、両親に対する必要な身のまわりの世話や療養看護は報酬あるいは見返りを目的にしてなすべきものではないし、またそれは基本的にはそれぞれの相続人がそれぞれの事情に応じて自発的に負担しあう性質のものであるから、そのなした事柄の程度、性質に多少の違いがあっても、当事者の合意による調整・配慮の範囲を越えて、裁判所が寄与分として相続による取得分に差をもうけることには慎重であるべきであろう。本件においては、当事者らの各審問の結果その他の証拠を綜合しても、同相手方が申立人両名や相手方梅子に比べてなお被相続人両名の財産の形成、増加あるいは維持、またはその療養看護について遺産の法定相続分による配分の割合を大幅に変更しなければ相続人間の公平に反し正義に反するような特別の寄与をなしたといいきれるほどの行為をなした事実を認めることはできない。よって、相手方桜子の被相続人両名の遺産についての本件寄与分の確定の申立はいずれも理由がなく、主文1項のとおりその申立は却下することとする。
なお、相手方梅子は寄与分の申立をしていないが、同相手方の被相続人両名に対する生活の援助、看護等における貢献を主張している。しかし、相手方桜子の場合と同様、相手方梅子の場合も遺産の配分において同相手方のために特段の配慮をすることも相当ではない。
5 (遺産分割の方法についての当事者らの意向)
(1) 申立人松子は遺産の4分の1の取得を要求し、具体的方法としては第一次的には不動産を全部売却し、その代金を本件遺産(一)の<4>ないし<8>および本件遺産(二)の<2>ないし<6>の預貯金貸付信託現金等とともに4等分することを希望し、第二次的にはこの預貯金貸付信託現金等は4等分し、本件遺産(一)の<1>の土地と同(一)の<3>の建物を相手方両名に取得させて自分は本件遺産(一)の<2>の土地を取得し、不動産の配分によって相続分に不足する分は調整金として相手方両名から支払いを受けることを提案している。
(2) 申立人竹子は同松子同様遺産の4分の1の取得を要求しているが、具体的方法としては第一次的に不動産を売却してその代金を預貯金貸付信託現金等とともに金銭で分割する方法を希望している。第二次的には申立人松子の意向と同じであるが、その場合自分の取得する不動産としては本件遺産(二)の<1>の土地を希望している。
(3) 相手方桜子は、寄与分があること、本件遺産(一)の<1><3>の土地建物の一部を使用していること、本件遺産(一)の<1>の土地の一部には借地権があること、本件遺産分割の紛争において相手方梅子とは同調できるが申立人両名とは対立が深刻であること等の本件諸事情を理由に、本件遺産(一)の<1><3>の土地および建物を相手方両名の取得に、本件遺産(一)の<2>の土地と本件遺産(二)の<1>の土地を申立人両名の取得にすることを希望している。そして本件遺産(一)の<1>の土地は相手方両名の共有ではなく、相手方両名で現物分割をすることを希望している。
(4) 相手方梅子は相手方桜子の希望に同調している。
6 (特別受益、相手方桜子の借地権その他、分割についての事情)
(1) 相手方桜子は本件遺産(一)の<1>の土地の一部を駐車場用地として占有使用し、また同(一)の<3>の建物も物置用に使用しているもので、この土地の部分については同相手方と被相続人亡太郎との間にその生前に締結された賃貸借契約があり、同相手方にはこの土地の部分について賃借権があると主張している。しかしながら、同相手方の主張する賃貸借契約については契約書やこれに類する書類はないし、一貫して賃料を支払ってきた事実も認められないし、その存在を認めるに足る証拠が存在せず、本件全証拠によっても他にこの土地についての賃借権の存在を認めることを相当とするような事情は認められないからこの賃借権を認めることはできない。したがって本件遺産(一)の<1>の土地は賃借権の負担のない、更地の状態で遺産となっているものである。
(2) 申立人両名はいずれも結婚してよそに家庭を構えており、本件遺産(一)の<1>の土地や同<3>の建物の全部または一部を取得することに強いてこだわるわけではなく、価値的に遺産の4分の1を取得すればよいという考えでいる。
(3) 本件全証拠を綜合しても、当事者らの全員について、遺産の配分について考慮すべき性質、程度の特別受益の存在は認めることができない。
7 (分割)
以上の、遺産の存在および価額、寄与分、特別受益、具体的分割方法についての当事者らの意向、その他のすべての事情を考慮して、価額的には当事者らがそれぞれ法定相続分どおり平等にそれぞれ4分の1の遺産を取得するものとして、本件の遺産の分割をする。
まず、不動産については、そのうち価額的にその(また遺産全体についても)大部分を占める本件遺産(一)の<1>の武蔵野市の土地をその地上の同(一)の<3>の建物とともに相手方桜子と相手方梅子がその共有持分をそれぞれ2分の1とする共有で取得するものとする。その理由は、この土地建物の一部は相手方桜子が過去現在にわたって占有使用していること、同相手方はこの土地建物の取得を希望していること、同相手方は相手方梅子とその生活においても本件遺産分割においても和合しており、遺産の取得分の関係からも同相手方と共同でこの土地建物を取得することが好都合と考えていること、相手方梅子も同桜子のその希望に同調していること、申立人両名はこの土地建物そのものを相手方両名の取得にする分割方法には反対ではないこと、その他の本件全般の事情によるものである。
(主文2項(1))
残る不動産(本件遺産(一)の<2>の五日市の土地と本件遺産(二)の<1>の相模原の土地)については、結果的には相手方両名が申立人両名に調整金を支払うことになることを考慮すればこれらを申立人両名の取得とすることが相当であるが、それぞれの意向も考慮して本件遺産(一)の<2>の土地を申立人松子の、本件遺産(二)の<1>の土地を申立人竹子の取得とする。(主文2項(2)(3))
本件遺産中の預貯金貸付信託現金等(本件遺産(一)の<4>ないし<8>、本件遺産(二)の<2>ないし<6>)はいずれも性質上可分のものであり、本件においては当事者らの手によって自治的に配分することも可能と思われるので、各預貯金(元利)、貸付信託、現金等のそれぞれを4等分してその1宛てを当事者ら4名が取得することとする。(主文2項(4))
8 (調整金の支払い)
前項掲記のとおり本件遺産中の不動産を配分すると相手方両名は申立人両名に対して調整金を支払うべきであるが、その金額はこれらの不動産の価額について裁判所の鑑定の結果(鑑定人○○○○○作成の鑑定書3通)その他の証拠を綜合して、相手方桜子および同梅子がそれぞれ金21,500,000円を支払い、申立人松子が金28,000,000円を受け取り、申立人竹子が金15,000,000円を受け取ることとして解決することが相当と判断する。そうすると、相手方桜子が申立人松子に支払う調整金の額は金14,000,000円で、申立人竹子に支払う調整金は金7,500,000円であり、相手方梅子が申立人両名に支払う調整金の額も相手方桜子の場合と同額である。これによって相手方両名は多額の調整金支払いの負担をすることになるが、前記7掲記のように相手方両名、特に相手方桜子において本件遺産(一)の<1><3>の取得を希望していること、等の本件諸事情を考慮すれば、調整金支払いの方法については相手方両名の才覚にまかせることとして、この方法による分割をすることが相当である。そしてその支払いについてはその金額が多額であること、従ってその金策に工夫を要すると思われること、等の諸般の事情を考慮して、その支払期限を審判確定の日から120日後とする。(主文3項(1)(2))
9 (結論)
以上により、鑑定人○○○○○に支払った鑑定費用の負担を均等と定め(主文4項)、主文のとおり審判する。
別紙 遺産目録等<省略>